四十肩、五十肩は関節に何は起こっている?
近年では画像診断の発達により病態を診断できるものが増えましたが、それでも痛みの原因がはっきりしないものも多くあります。
今回はその“原因がはっきりしない四十肩、五十肩”について現時点の研究で分かっていることを説明したいと思います。
四十肩、五十肩になると肩が動かせない、上がらないなど正常な範囲で動かなくなってしまいますよね。この状態のことを「拘縮」といい、これは主に“関節包”という場所に起こります。
肩関節を覆っている関節包が拘縮すれば、当然肩の動きが悪くなってしまいます。
また関節包以外にも関節を覆っている烏口上腕靭帯や腱板疎部という場所があり、ここにも病変が起こりやすく、ここの動きを制限されると特に腕を外側に捻る外旋という動きで痛みが強くなり動かすことが出来なくなってきます。
 
(Thanks Complete Anatomy)
発症初期にはこの部位に血管新生や炎症反応、細胞接着などの病変が見られ、コルチゾル注射を行うと効果が高いと報告されています。
また手術を選択した際はここを切離することもある程くらい四十肩、五十肩と関わりが深い場所です。
しかし、発生機序については他にもさまざまな説があり、最新のエビデンスにおいてもなぜこのような場所に拘縮が起こるのか正確な原因はわかっていません。
それでも今現在の研究により考えられるいくつかの説を紹介します。
・機械的ストレス
普段の動きの中で身体にストレスを与えると細胞が傷つきます。ある程度は修復されますが、限度を超えると変性を起こすと言われています。
この変性は「線維芽細胞」という伸縮性のない細胞から「筋線維芽細胞」という収縮する細胞に変わることで過度に縮んでしまい、可動域制限や拘縮につながると考えられています。
・細胞外基質(マトリックス)の周期回転異常
先ほど解説した線維芽細胞は細胞外基質のコラーゲンというものを生成します。
このコラーゲン生成の周期はMatrix Metallo Proteinases (MMPs)とTissue Inhibitor of Metallo Proteinases (TIMPs)という酵素によって管理されています。
MMPsは簡単に言うと余分なコラーゲンを溶かす役割で、TIMPsはMMPsの働きを抑制する役割を担っています。つまりこの二つの酵素がバランスを取りあうことでコラーゲンの生成、恒常性を保っています。
しかし、何らかの原因により二つの酵素のバランスが崩れるとコラーゲンの線維化を進行させるとされています。そして、徐々に関節包が拘縮していくことに繋がります。
・低程度の慢性炎症
四十肩、五十肩の患者の関節包では細胞の接着分子であるICAM-1やリポ蛋白(α)というものの数値が高くなることが確認されており、低程度の慢性炎症に関わる化学物質が線維芽細胞を筋線維芽細胞に変性するトリガーになると考えられています。
 
そして慢性炎症と関わりが深い糖尿病や甲状腺疾患を持っている人は四十肩、五十肩の生涯発症率が非常に高くなります。そのデータとして一般人の四十肩、五十肩の生涯発症率は2-5%ですが、糖尿病患者では10-30%にまで上昇します。
さらに糖尿病患者では加齢や高血糖に伴って病変を誘発する化合物(AGES)が活発になり、これに伴い前述したTIMPsの働きを抑制し細胞外基質のサイクルにも悪影響をもたらします。
そのため糖尿病患者の予後は不良になります。
このように痛みが出ている場所だけを治療していてもよくならない場合があることはわかっていただけたと思います。
四十肩、五十肩の発生機序はシンプルではなく複雑です。そして、未だに全て解明されていません。
糖尿病のリスクとなりうるような乱れたライフスタイルは身体の恒常性に影響を及ぼし、慢性炎症のトリガーになる可能性があります。
身体が慢性炎症状態であれば肩の治療をしたとしても痛みが取れづらい可能性があります。
 
そのため当院では肩の治療はもちろん、運動療法や栄養療法で痛みを強くしている様々な因子に対してトータルで治療を行い、痛みを改善できるよう様々なアプローチで治療を行います。
現時点で言えることは慢性炎症が発生機序、または疾患の進行に関わっている可能性が高いということです。
そのため、単なる肩関節の拘縮と捉えるのではなく、他に生活習慣なども関わってくることを認識していくことが大切になりそうですね。
【参考文献】
T Kraal, J Lübbers, M P J van den Bekerom, J Alessie, Y van Kooyk, D Eygendaal, R C T Koorevaar. The puzzling pathophysiology of frozen shoulders – a scoping review. J Exp Orthop. 2020 Nov 18;7(1):91.
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