見逃されがちなオーバートレーニング症候群
執筆者 門野隆顕
現在高校のテニス部をサポートしていますが、少し前に選手から「最近やる気が出ない」や「練習に体がついてこない」などの訴えがありました。周りから見ても体が重く、いつもの動きには程遠いパフォーマンスでした。
この選手は普段から真面目で真剣に練習するタイプだったので、その時の気分や体力不足でないことは明らかでした。
話を聞くと試合に向けて練習量を増やし、いつもより強い相手と打ち合っているとのことでオーバートレーニング状態であることが予想できました。この選手には練習量を見直すことやリラックスできることを優先的に行うようにしっかり説明して、連絡を取り合いながら数週間でいつもの状態に復帰しました。
このケースのように真面目で真剣に取り組もうとする選手ほどオーバートレーニングには気を付けなければいけないと改めて感じました。身近にオーバートレーニング症候群のような選手がいれば、今回のブログを参考にしてみて下さい。
「オーバートレーニング症候群とは?」
スポーツなどによって生じた生理的な疲労が十分に回復しないまま積み重なって引き起こされる慢性疲労状態のことを言います。
人間は、身体的、精神的ストレスを受けて一時的にパフォーマンスが下がってオーバートレーニングのような状態になったとしても、その後すぐに回復する場合や、回復していく過程で以前よりもパフォーマンスが向上する場合がみられます。
この場合、前者を非機能的オーバーリーチング、後者を機能的オーバーリーチングと呼ぶことがあります。
パフォーマンス向上を狙ってトレーニング量を増やし、一時的にパフォーマンス低下を伴う機能的オーバーリーチングは、その選手が大きくパフォーマンスを引き上げていく過程で必要な現象であるとも言えます。
それでは、どんな場合にオーバートレーニング症候群が生じてしまうのでしょうか?
オーバートレーニング症候群の原因
これが生じる原因は、ストレスの回復に十分な時間がなかったときです。
トレーニング後に十分な回復の時間が与えられないまま、さらにトレーニングを繰り返すと、徐々にパフォーマンスが下がり、最終的にはオーバートレーニング症候群になります。
今回の選手でもまさにこれに当てはまります。試合で勝つために詰め込んで強度の高い練習を行い、回復する時間が与えられないまま繰り返されたことが原因です。
『休んだらすぐ治るでしょ』と思うかもしれませんが、そんな簡単には治りません。オーバートレーニング症候群に一度なると、回復するのに年単位の時間を必要とする可能性もあります。
なぜこんなにも回復に時間がかかるのか?
それは中枢機能の異常によって生じるものだからです。
スポーツで激しく運動を行った時には身体はエネルギーを消費し、筋線維が損傷して、大きな身体的ストレスがかかります。この身体的ストレスに適応するためには、脳が身体に対して、適応する指令を送らなければなりません。
しかし、オーバートレーニング症候群になると、この脳の指令が異常を起こします。
この中枢機能の異常は、「過敏化」と「疲弊」の二段階で生じます。
【中枢機能の過敏化】
身体的ストレスというのは、激しい運動によって、コルチゾールといった興奮性のホルモン物質が分泌されることを指します。
コルチゾールは、心拍数の上昇、血糖値の上昇、筋肉を分解し糖新生を亢進など、激しい運動をする状態に体を持っていくことが運動中の役割になります。
過敏化の段階では、この身体的ストレスが過敏となるため、興奮性のストレスホルモンが異常に分泌されるようになります。
これは、運動中だけでなく、運動をやめても継続して分泌されるため、日常生活にも支障をきたします。
そのため、以下のような症状が出現してしまいます。
〈身体的症状〉
・少しの運動で異常に心拍数が上がるようになる。
・疲労の回復が遅くなり、慢性的に疲労が取れなくなる。
〈心理的症状〉
・寝付けない、よく眠れない、起床後に眠気が取れない等の睡眠障害
・意欲の低下や無力感などのうつ病やストレス障害
・集中力や注意力などの認知機能の低下
しかし、この段階であれば、先程説明した非機能的オーバーリーチングの状態であり、数週間〜数ヶ月程度の安静休養によって回復できると言われています。
【中枢機能の疲弊】
過敏化の状態からさらに進んだ状態が、中枢機能の疲弊です。
この段階では、身体的ストレスに対して中枢機能の反応が弱くなり、適応が弱まって、最悪の場合は起きないという状態に至ります。
つまり、身体が疲労しても、脳が回復しようとしないということです。
これが、オーバートレーニング症候群の状態であり、オーバートレーニング症候群になると年単位の回復期間が必要になる最大の理由です。
症状は、身体的症状・心理的症状とも非機能的オーバーリーチングの段階とほとんど変わりませんが、程度がより大きく生じる可能性が高いと言われています。
もしうつ病のような心理的な自覚症状がみられた場合には、オーバートレーニング症候群を疑いましょう。
今回は、オーバートレーニング症候群について紹介しました。
あまり馴染みがなく、少し休んだら治るという固定概念があるため意外と軽視しがちですが、一度なってしまうと長期間の休養が必要となる非常に怖い疾患なのです。
もし自分や周りの選手の様子がおかしいなと感じたら疑ってみて下さい!
ブログ・目次
- 腰痛(6)
- 椎間板ヘルニア(4)
- 坐骨神経痛 梨状筋症候群(1)
- 腰部脊柱管狭窄症(3)
- 腰椎分離症(4)
- 変形性股関節症 臼蓋形成不全(1)
- 四十肩・五十肩(8)
- 石灰沈着性腱板炎(1)
- 肩こり 頚肩腕症候群 姿勢不良(1)
- 頚椎症性神経根症(1)
- 野球肩 野球肘(25)
- リトルリーガーズショルダー(1)
- 腱板損傷(2)
- 胸郭出口症候群(TOS) 野球(1)
- ベネット病変(骨棘)、投球障害肩(1)
- 変形性膝関節症(2)
- オスグッド(1)
- シンスプリント(1)
- 肘内障(1)
- 足底腱膜炎(足底筋膜炎)(1)
- 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)(2)
- ばね指(1)
- めまい メニエール病 良性発作性頭位めまい症(BPPV)(1)
- 橈骨遠位端骨折(コーレス骨折)(1)
- ジョーンズ骨折(1)
- イズリン病(Iselin、第5中足骨粗面) (1)
- 顎関節脱臼(1)
- 栄養(3)
- 低酸素トレーニング(加圧トレーニング)(2)
- 超音波骨折療法(LIPUS)(2)
- 体外衝撃波(2)
- 立体動態波 ハイボルテージ(1)
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